CROSS研究生体験記  奈良女子大学 長濱氏(2022年11月)

2023.04.11

CROSS研究生体験記  奈良女子大学 長濱氏(2022年11月)

奈良女子大学 大学院人間文化総合科学研究科
博士前期課程2年 長濱 佑美

私は2022年11月21日から12月18日までの28日間、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターにCROSS研究生として滞在し、さまざまな実験を行いました。ここに、滞在記として活動内容を報告します。

現在、アミノ酸と糖を用いたアミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤を新規に分子設計・合成し、水溶液中の基礎的な物性や会合体の構造、泡沫の構造・安定性について研究しています。昨年のCROSS研究生の活動では、レオメーターの装置を用いて、合成したアミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤(CnGlyMal)のレオロジー(粘度のずり速度依存性、粘弾性の周波数依存性)を測定することで、ハイブリッド界面活性剤水溶液の濃度が増加すると粘度が増大し、粘性支配のミセル溶液から紐状ミセル、さらに弾性支配のゲル溶液に転移することがわかりました。また、アミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤は、対応する糖型界面活性剤と比べて水溶性に優れ、X線および中性子小角散乱(SAXS・SANS)のプロファイルの解析より、高次構造の会合体を形成することが明らかになりました。さらにハイブリッド界面活性剤の糖の構造を変えることで、さらなる物性の向上や機能性の発現が期待されます。

そこで今回のCROSS研究生の活動では、ハイブリッド界面活性剤の糖の構造の違いに着目し、アミノ酸にグリシン(Gly)、糖にマルトース(Mal)またはセロビオース(Cel)を用いたアミノ酸-糖ハイブリッド界面活性剤(CnGlyMal、CnGlyCel)および比較の糖型界面活性剤(C10Mal、C10Cel)を新規に合成し、先に合成したGlyとLacのハイブリッド界面活性剤CnGlyLacとともに、レオロジー測定、中性子小角散乱(SANS)測定およびレオロジーとSANSの同時測定(Rheo−SANS)により、水溶液中で形成する会合体の構造を明らかにすることを目的としました。

レオロジー実験の様子

レオロジー測定は、アミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤(CnGlyCel)水溶液の10~1000 mmol dm−3の濃度において、クラフト温度以上の温度で行いました。CnGlyCelは、先に測定したCnGlyMalおよびCnGlyLac水溶液と同様に、濃度が増加すると粘度が増加し、粘性支配のミセル溶液から紐状ミセル、さらに弾性支配のゲル溶液に転移することがわかりました。500 mmol dm−3の濃度において、C12GlyMal、C12GlyCelおよびC12GlyLacはいずれも粘度のずり速度依存ではシェア−シニング、粘弾性の周波数依存ではマクスウェルモデルを示し、紐状ミセルの形成が示唆されました。粘弾性の周波数依存より得られた粘性項と弾性項の交点より、紐の緩和時間と密度を見積もると、C12GlyCelおよびC12GlyLacは解けやすくメッシュサイズが大きい紐であるのに対し、C12GlyMalは解けにくく密に詰まった紐であることが明らかになりました。さらに水溶液の温度を上昇させると、緩和時間が短く、紐の絡み合いが小さくなることがわかりました。

Rheo−SANS実験の様子

SANS測定では、コントラストマッチング法を用いて、アミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤の会合体中で1分子あたりの体積および会合数を見積もり、SAXSのモデル解析により算出した会合数とともに検討しました。コントラストマッチング法により求めた会合数はアルキル鎖長が長くなると増加し、SAXSの結果と一致しました。

Rheo−SANS測定では、C12GlyMalの500 mmol dm−3の濃度において、温度を変えて行い、紐状ミセルのさらなる解明を目指しました。得られた二次元画像はセルの中心で異方性、セルの端で等方性を示し、ずりをかけることで紐状ミセルが流れることが示唆されました。レオロジーやSANS、SAXS、Rheo−SANSの結果より、アミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤が形成する会合体はアルキル鎖長や濃度だけでなく、糖の構造および温度に大きく影響を受けることが明らかになりました。


滞在中に得られたデータを基に資料を作成し、中性子科学センターにおいて成果報告会が行われました。2022年度量子ビームサイエンスフェスタ(つくば国際会議場)で研究成果を発表し、柴山中性子科学センター長をはじめ、多くの方に研究内容に関するご助言をいただきました。今回の滞在では専門外の方々ともディスカッションする機会を設けていただき、研究を見つめ直す有意義な時間を過ごすことができました。これらの貴重な体験を今後の活動に活かし、界面活性剤の研究の発展に貢献できるよう精進して参ります。

最後になりましたが、25日間という長期間にも関わらず、実習を受け入れてくださいました柴山充弘中性子科学センター長、指導してくださいました岩瀬裕希副主任研究員、有馬寛研究員、上田実咲技師、貴重な経験の機会を与えてくださいました吉村倫一教授に深く感謝申し上げます。


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