CROSS研究生体験記 奈良女子大学 渡邊氏
奈良女子大学 大学院人間文化総合科学研究科
博士前期課程2年 渡邊 萌
私は2022年11月28日から12月18日までの21日間、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターにCROSS研究生として滞在し、ゼータ電位および動的光散乱(DLS)により測定を行いました。ここに体験記として活動内容を報告します。
在籍する奈良女子大学大学院において、殺菌・消毒剤に用いられているベンザルコニウム系単鎖型界面活性剤の性能の向上を目指して、ジェミニ型構造の新規ベンザルコニウム系界面活性剤を分子設計・合成し、これらの水溶液物性や抗菌性、会合体特性について研究してきました。また、これらのカチオン界面活性剤とアニオン界面活性剤の混合系における水溶液中での会合挙動を調べ、会合挙動に及ぼす両界面活性剤の混合モル比やカチオン界面活性剤の構造と鎖数の影響を検討しておりました。
これまでに、X線および中性子小角散乱(SAXS・SANS)のプロファイルの解析より、カチオン界面活性剤単独系ではミセルを形成しますが、アニオン界面活性剤との混合系ではベシクルを形成することが示唆されました。今回の実習では、ベシクルの分散安定性の評価に有効なゼータ電位を調べ、SAXS、SANSおよびDLSから得られた結果と合わせて会合体の構造をより詳細に明らかにすることを目的としました。
今回の滞在では、岩瀬裕希副主任研究員、有馬寛研究員、上田実咲技師のご指導の下、ゼータ電位およびDLSの測定について学びました。CROSSおよびJ-PARCには、最先端の測定装置が数多くあり、実際に用いた機器以外の様々な機器にも触れ、今後の研究の展開に役立つ知識を得ることができました。はじめに、有馬研究員よりDLS、ゼータ電位の測定および解析方法についてご教授いただきました。それ以降はゼータ電位とDLSの測定とデータの解析を並行して行い、様々な界面活性剤の混合系水溶液の分散安定性や水溶液中で形成する会合体の大きさを調べました。滞在期間中にはSAXSやSANSの解析を行い、今回の実習で得たゼータ電位とDLSの結果と合わせることで、会合体の構造を解析しました。
これらの実験や解析を通して、合成したカチオン界面活性剤の鎖数や構造を変えることで、溶液の様子(濁度など)、粘性挙動、分散安定性、会合体の構造が異なるとがわかりました。今回の滞在で取得したデータは、他の実験で得た結果の裏付けに非常に有用なものであり、研究の考察をより深めることができました。
3月14日には、今回の滞在中に得られたデータを基に資料を作成し、中性子科学センターにおいて成果報告会が行われました。柴山中性子科学センター長からは、研究内容に関する有益なご助言をいただき、自分の研究に対してより深い興味をもつことができました。これまで私は、ベンザルコニウム系界面活性剤の単独系および混合系における水溶液物性について研究を行っていましたが、今回のゼータ電位の測定から界面活性剤水溶液の分散安定性を詳しく知ることができました。本報告会で得られた知識や考察は、修士論文の作成に大いに役立ち、有意義な研究生の時間となりました。今後もコロイド・界面化学分野の研究の発展に貢献できるよう精進して参ります。
指導教員である奈良女子大学研究院自然科学系化学領域 吉村倫一教授には、本研究生の機会をいただき、実験データに関して多くの有益なご助言をいただきました。ここに厚く御礼申し上げます。また、21日間という長期間にも関わらず、CROSSのスタッフの皆様には、親切な御対応、御説明をしていただき、滞りなく実験を進めることができました。柴山充弘中性子科学センター長、岩瀬裕希副主任研究員、有馬寛研究員、上田実咲技師に感謝の意を表します。