CROSS研究生体験記 京都大学 石井氏
京都大学 工学研究科 物質エネルギー化学専攻
修士課程2年 石井 浩介
私は2023年5月15日から5月19日と6月27日から7月1日までの計10日間、一般財団法人総合科学研究機構 (CROSS) 中性子科学センターに研究生として滞在し、重水素化物合成の実習をさせて頂きました。
私は、中性子反射率測定 (NR) を用いて、イオン液体 (IL) が固液や液液界面において形成する界面構造の電位差依存性を研究しています。ILは、二次電池や燃料電池、電気二重層キャパシタ、溶媒抽出、金属ナノマテリアル合成への応用が期待されています。それらの応用において、界面はイオン移動や電子移動が行われる電気化学反応場となります。界面構造は材料の性能に影響するため、界面構造の解析は重要な研究課題の一つとなります。
我々は、コントラスト変調NRによる界面構造の精密解析を行うことを計画しています。本実習では、コントラスト変調NRのための重水素化ILの新規合成法の開発を実施しました。
実習では、CROSS 阿久津 和宏氏の指導のもとILの重水素化と重水素化率の測定を行いました。実験の結果、90%を超える重水素化率を持つILが得られました。また、重水素化率を減少させる副反応の存在を初めて確認し、重水素化の化学反応における新しい知見を得ることができました。実習成果発表会では、CROSSの方々と本実習の成果について議論させていただきました。専門家とのディスカッションにより、重水素化物に対する理解を深めることができたうえ、実習後の展望も明確にすることができました。
実習中は重水素化反応を丁寧に指導していただき、重水素化反応だけでなく関連する分野の知識を習得することができました。その結果、上記の大きな成果を上げることができました。また、質問にも丁寧に回答していただいたため、疑問をため込むことなく実験を行うことができました。重水素化の専門家から直接指導を受けられることは、CROSSで実習を行う大きなメリットであると感じました。本実習で学んだ重水素化の知見を、今後の重水素化反応の開拓や界面構造解析に役立てていきたいと考えています。
最後になりましたが、今回実習を指導していただいた阿久津氏や、実習を受け入れて下さった柴山センター長をはじめCROSSの方々に深く感謝申し上げます。