2022.08.03
CROSS研究生体験記 東北大学 川又氏
東北大学 大学院理学研究科
博士前期課程2年 川又 雅広
私は、2021年度を通して一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センター研究生として活動させていただきました。体験記として活動内容を報告いたします。
私は、東北大学金属材料研究所量子ビーム金属物理学研究部門(藤田研究室)に所属し、中性子や放射光を使ったカイラル磁性体の物性研究を行っています。長周期カイラル磁性体に対して効果的な研究手法の一つである、中性子小角散乱実験の経験を積みたいと考えていたところ、所属研究室の藤田全基教授、CROSSの鈴木淳市氏、大石一城氏からCROSS研究生のお話を頂き参加させていただいた次第です。
私は、東北大学金属材料研究所量子ビーム金属物理学研究部門(藤田研究室)に所属し、中性子や放射光を使ったカイラル磁性体の物性研究を行っています。長周期カイラル磁性体に対して効果的な研究手法の一つである中性子小角散乱実験の経験を積みたいと考えていたところ、所属研究室の藤田全基教授、CROSSの鈴木淳市氏、大石一城氏からCROSS研究生のお話をいただき、参加させていただいた次第です。CROSS研究生として、J-PARC MLF BL15大観を利用した「磁気渦構造が期待されるカイラル磁性体のらせん周期の探索」、「偏極解析装置を使った未知のカイラル磁性体のらせん周期の探索」、「中性子準弾性小角散乱手法の開発」の3つの課題に取り組みました。
まず、「磁気渦構造が期待されるカイラル磁性体のらせん周期の探索」では、初めてBL15で実験する機会をいただきました。試料のセットアップやオペレーション、解析まで右も左も分からない状態でのスタートでしたが、大石氏に丁寧に指導していただき、実験をスムーズに進めていくことができました。実験の中では、2Kまで達することのできる冷凍機や4Tまで印加できるマグネットを駆使し、対象物質で初めてとなる単結晶を用いた磁場中(H//c)での中性子回折実験を行い、磁気反射の観測に成功しました。自ら苦労して作製した単結晶試料に中性子ビームを当て、見事に磁気反射が観測できたときはとても感激しました。
次に、「偏極解析装置を使った未知のカイラル磁性体のらせん周期の探索」では、他の研究手法から100 nm程度の非常に長いらせん周期構造を持つと予想されている物質に対して、中性子を使って直接らせん周期を決定することを目的に実験を行いました。らせん周期が非常に大きいことで、磁気散乱がダイレクトビームに近い位置に現れることが予想され、ダイレクトビームと磁気散乱を分離するために、通常の1stフレームモードから入射中性子の波長帯を長波長側に移した2ndフレームモードにより磁気散乱の現れる位置の調整を試みました。また、偏極解析装置を使った核散乱、磁気散乱の分離を試みました。これらの挑戦ではいずれも予想通りの結果は得られず、試行錯誤の連続でした。最後は、非偏極モードで正体不明のブロードなシグナルの温度変化を測定してみると、磁気転移温度近傍で信号が消え、これが磁気由来のシグナルであったことを明らかにすることができました。
さらに、「中性子準弾性小角散乱手法の開発」では、本来、入射中性子のエネルギー解析を行わない装置であるBL15において、さらなる挑戦として入射中性子のエネルギーを少しだけ試料に渡す”準弾性散乱”を測定する手法の開発を行いました。BL15では、測定に使いたい波長をチョッパーで切り出された入射中性子を試料に照射しています。通常は、数Å程度の波長帯で切り出しているのに対し、今回の準弾性散乱測定ではどのくらいエネルギーが変わったか、すなわちどのくらい波長が変わったかが重要となるため、非常に狭い波長帯で切り出した入射中性子を使用しました。非常に狭い波長帯で切り出したことで、試料に照射される中性子数が少なくなり、観測したかったシグナルを見ることはできませんでした。しかし、中性子小角散乱装置としての形と実績のあるBL15で、準弾性散乱手法の技術開発に取り組み、長周期構造を見ることのできるBL15の利点と組み合わせることで、BL15の利用範囲をより広げていこうというCROSSの方々の姿勢に大変感銘を受けました。
最後に、滞在中は大石一城氏をはじめとするBL15やCROSSのスタッフの方々に大変お世話になりました。また、大阪府立大の高阪勇輔氏にはカイラル磁性体の実験に参加させていただき大変貴重な機会となりました。同様に、東北大学の藤田全基教授には本研究生の機会をいただきました。本研究生としての活動にかかわっていただきました全ての方々に感謝いたします。