研究生滞在報告 アラゴン・ナノ科学・材料研究所 / サラゴサ大学Pedro氏
【テーマ:Study of battery materials by means of small- and wide-angle neutron scattering】
研究開発部 大石 一城
実習の背景と目的
スペインのサラゴサ大学より、博士課程に在籍するPedro氏をCROSS研究生として受け入れました。彼は既に放射光施設でのオペランド実験経験を有していましたが、今回はJ-PARCの小角・広角中性子散乱装置「大観」を用いた実験と解析技術の習得が大きな目的でした。特に、我々が開発した独自のオペランド中性子小角・広角散乱実験用電池セルを用い、彼自身の研究テーマであるシリコン系負極材料の挙動を解明することを目指しました。
徹底した事前準備と「現場」の難しさ
在初期には、J-PARCおよび「大観」の装置特性に関する講義を行い、解析ソフト「空蝉(Utsusemi)」を用いたデータリダクションの習得を進めました。実験準備として、共同研究先である東京理科大学の駒場研究室を訪問しました。同研究室のグローブボックスをお借りし、我々が開発した中性子実験用電池セルへの電池組み込みを行いました。CROSSに持ち帰り、いざ充放電試験を試みましたが、移動中の微細な振動等でショートが発生したか、正常な動作に至りませんでした。この特殊セルの取り扱いの難しさと、繊細な習熟が必要であることを再認識する、貴重な「失敗の経験」となりました。

ビーム停止という試練とスクールでの交流
2024B期、Pedro氏のメインイベントである中性子実験を目前に、中性子源の交換トラブルによりビームタイムが全てキャンセルとなる事態に見舞われました。彼自身の試料での実験がJ-PARCで実現できなかったことは、指導する側としても非常に悔やまれる出来事でした。
しかし、彼はこの状況でも前向きに活動を続けました。同時期にJ-PARCで開催された「第8回中性子・ミュオンスクール」に参加し、中性子およびミュオンの講義を受講。ビーム停止中の実習ではありましたが、冷凍機への試料マウントや既存データを用いた解析手法を学び、将来の実験への基礎を固めました。

科学を通じた国際交流と絆
滞在期間中は、研究以外での交流も深まりました。11月のPedro氏の誕生日には、地元のクラフトビール店で祝宴を開きました。同時期に弘前大学から来ていたCROSS研究生の難波君や茨城大学の先生方も加わり、国籍や所属を超えた賑やかな交流の場となりました。また、彼の指導教官であるJavier Campo教授がCROSSを訪問された際も、地元の美味しいお酒と料理を囲み、多様な専門分野の研究者が集う素晴らしいネットワーキングの機会となりました。

未来へ続く成果
滞在中にJ-PARCでの測定は叶いませんでしたが、我々のオペランド電池セル一組をスペインへ持ち帰ってもらい、条件の最適化を継続することとしました。
研修終了後になりますが、持ち帰ったセルを用いて2025年10月にフランスのILL(ラウエ・ランジュバン研究所)にて中性子実験を実施しました。私も初めてのILLでの実験に、Pedro氏以上に興奮しました。現在、Pedro氏はその成果を携え、博士論文の最終審査に向けて準備を進めています。
今回の滞在が、彼のキャリアの重要な一歩となったことを嬉しく思うとともに、次回こそはJ-PARCでの実験を共に楽しめる日が来ることを心待ちにしています。
