CROSS研究生体験記  奈良女子大学 小林氏

2022.05.24

CROSS研究生体験記  奈良女子大学 小林氏

奈良女子大学 大学院人間文化総合科学研究科
博士前期課程2年 小林 礼実

私は2021年12月2日から21日までの20日間、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS)中性子科学センターに研究生として滞在し、レオロジーおよび動的光散乱(DLS)の実験をさせていただきました。ここに体験記として活動内容を報告します。

私はアミノ酸にグリシンまたはバリン、糖にラクトースまたはマルトースを用いたアミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤を新規に合成し、これらの界面活性剤の水溶液中における物性と形成する会合体の構造について研究しています。これまでに、X線および中性子小角散乱(SAXS・SANS)結果の解析により、界面活性剤の濃度が低い時は楕円体ミセルを形成しますが、濃度の増加とともに棒状ミセル、さらに紐状ミセルに転移することが示唆されました。今回の実習では、紐状ミセルの構造形成に対して有効なレオロジー特性(粘度、粘弾性)を調べ、SAXSおよびSANSから得られた結果と合わせて会合体の構造をより詳細に明らかにすることを目的としました。

レオロジーの実験はCROSSの岩瀬裕希副主任研究員に指導していただきました。アミノ酸−糖ハイブリッド界面活性剤水溶液の試料濃度および温度を変えたときのレオロジー挙動について調べました。比較としてラクトース由来の糖型界面活性剤を用いて、会合体の構造を同様に調べ、アルキル鎖長、アミノ酸と糖のハイブリッド構造、糖の構造が会合挙動に与える影響を検討しました。レオロジーの実験を通して、会合体の構造は界面活性剤の構造を変えることで大きく異なることがわかりました。とくに、アミノ酸を嵩高い構造に変えると、同じアルキル鎖長で紐状ミセルを形成しやすくなることがわかりました。さらに、水溶液の温度を上昇させると、ゲルから紐状ミセルへ転移するといった新しい結果を確認することができました。

レオロジー実験の様子

時には実験の息抜きに東海村の新鮮な海鮮を堪能し、充実した日々を過ごしました。時期が12月ということもあり、宿舎の東海ドミトリーから実験設備のあるJ-PARC研究棟まで、夜寒い中自転車で20分ほどかけて移動するなど思わぬ苦労もありました。


最終日前日には成果報告会があり、CROSSの皆様と議論する機会を得ました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、研究室に所属してからの約3年間、対面での学会発表の経験がなかったため、多くのCROSSの方々と実際に議論する場を設けていただき貴重な経験をすることができました。柴山充弘中性子科学センター長からは多くの貴重なご意見をいただき、多様な視点で今回の実験結果に対する考察を行うとともに、今後の新たな課題を見出すことができました。

成果報告会の様子

修了書授与式の様子


今回、さまざまな分野の専門の方々とのディスカッションを通じて、レオロジー、SAXS・SANSの解析について、多くの知識を得ることができました。岩瀬副主任研究員にはSAXS・SANSの解析についてもご指導いただきました。得られたレオロジー特性と合わせて、棒状・紐状ミセルに対する散乱プロファイルのモデル解析を行い、ミセルのコアと全体の長さを見積もることができました。CROSSの実習で得た経験を自身の今後の研究に役立てて参ります。

最後になりましたが、コロナ禍の中で研究生として受け入れていただいた柴山中性子科学センター長、実習を指導していただいた岩瀬副主任研究員をはじめとするCROSSの皆様に深く感謝申し上げます。また、指導教員の吉村倫一教授にはCROSSでの貴重な学びの機会を与えていただきました。深く感謝申し上げます。

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