CROSS研究生体験記
京都大学 工学研究科 物質エネルギー化学専攻
修士課程2年 石井浩介
私は2021年10月18日から22日までの5日間、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS) 中性子科学センターに研究生として滞在し、重水素標識反応の実験をさせて頂きました。
私は中性子反射率 (NR) を用いて、イオン液体 (IL) |水界面におけるイオン層構造の界面電位差依存性を研究しています。疎水性イオンから構成されるILは水との間に二相系を形成し、溶媒抽出や蓄電デバイスへの応用が期待されています。IL|水界面はイオン移動や電子移動が行われる反応場となるため、IL|水界面構造の解明はデバイス開発にとって重要な課題の一つとなっています。今回の実習では、IL|水界面のNRに使用する重水素化ILの合成および重水素化率の測定方法の習得を目指しました。軽水素ILだけでなく重水素化ILも用いてNR実験を行い、それらの結果を比較することで、詳細な界面構造解析ができる、また、重水素化によりIL中の軽水素量が減少するため、水素の非干渉性散乱を小さくし、広角側の反射率の精度良い測定もできると考えます。
重水素標識反応の実験はCROSSの阿久津和宏氏に指導して頂き、重水素化ILの前駆体となる重水素化合物の合成と重水素化率の測定を行いました。合成した物質の重水素化率は想定よりも低い結果となりました。これは反応装置内の温度が想定よりも5 ℃低かったことが原因であると考えられ、重水素標識反応では厳密な温度管理が不可欠であるということを学びました。最終日には実習成果発表会があり、CROSSの皆様と議論する機会を得ました。専門家の皆様から様々な意見を頂けたことで新たな知見が得られ、重水素化合物およびNRに対する理解が深めることができました。
CROSSの実習では、重水素標識反応を一から分かり易く教えて頂けたため、専門外である私でも十分に理解することができました。また、実習中に発生した疑問にもその場で回答して頂き解消することができました。重水素化の専門家の下で、疑問を溜め込まずに実験を進められたことは、CROSSで実習を行う大きなメリットであると感じました。今回の実習で学んだ重水素化の知識は、今後のIL|水界面構造解析に大いに役立つと確信しています。
最後になりましたが、今回実習を指導して頂いた阿久津氏やコロナ禍の実習を受け入れて下さった柴山センター長をはじめとするCROSSの皆様に深く感謝申し上げます。