私は、2025年5月から2026年3月までCROSS研究生としてナトリウムイオン電池の開発というテーマで中性子実験を行いました。実習では、中性子小角・広角散乱装置「大観」(J-PARC MLF, BL15)を用いたオペランド測定および、測定データの解析を行いました。
私は軽元素を含む金属化合物における新規超伝導体探索を行っています。自身で作製した超伝導体の物性測定において、CROSSのユーザー実験準備室にある測定装置をお借りして測定を行っておりました。その際にJ-PARCの見学をさせていただき、中性子実験に興味を持ちました。
この度はCROSSの大石さんからCROSS研究生のお話をいただき、中性子実験に参加させていただきました。
今回の研修では、エネルギー材料開発をテーマとしてナトリウムイオン電池の充電過程および、放電過程でのオペランド測定を行いました。実習では、ナトリウム金属とモノリス炭素、電解液等から構成される電池を用い、中性子小角・広角散乱測定を行いました。モノリス炭素はグラフェン層や空孔を持つ炭素の多孔体であり、本実験では負極材料として用いています。充電放電の過程で、モノリス炭素の層間と空孔のどの位置にどのような順番でナトリウムイオンが挿入されているかを解明することを目的としました。
実習では、ナトリウムイオン電池の充電過程・放電過程での中性子散乱強度を測定しました。中性子実験は初めてでしたが、CROSSの皆さんに測定方法や手順等を詳しく教えていただき、見るだけではなく、実際に操作をして実験を行うことができました。実験では始めに充電をしてない状態で測定をし、その後充電を始め、フル充電まで測定を行いました。充電完了後、放電過程の測定を行いました。ここで、充電過程の測定中に中性子源に関するトラブルが発生し、中性子ビームが停止しました。数時間後ビーム運転は一時再開しましたが、このトラブル伴いMLFの利用運転が停止することになりました。そのため、放電のスピードを予定より早めて測定を行いました。
データ解析では、始めに測定データをフィッティングするための関数を決定しました。先行研究であるハードカーボンのオペランド実験を参考に、低q領域(空孔に対応)はTeubner–Streyモデル、高q領域(グラフェン層間に対応)はローレンツ関数を選択しました。その後、散乱強度の測定データをフィッティングするためのプログラムをpythonで作成し、実際に得られた測定データを使用してフィッティングを行いました。このフィッティングから各パラメータを導出することで、充放電過程でナトリウムイオンがモノリス炭素のどの位置にどのような順番で挿入されるかを解明します。私は適切なフィッティング関数を自分で定し、測定データを解析することや、プログラミングによるデータ解析が初めてでしたが、大石さんに丁寧に教えていただき、一人でプログラムを作成し、データの解析により各パラメータを導出をすることができるようになりました。
負極材をハードカーボンとした先行研究では、ナトリウムイオンは初めにハードカーボン内の炭素の表面や欠陥部分に吸着し、次に炭素の層間に挿入し、最後にナノサイズの空孔に挿入されることが確認されています。しかし、今回の実験結果からは、各パラメータの有意な差を確認することができませんでした。そのため、ナトリウムイオンがどのような順番でどの位置に挿入されたかを解明することはできませんでした。この原因は、先行研究で用いた電池の構造の一部を変更したことによると考えられます。先行研究では、ハードカーボンとナトリウム金属は円板状であり、中性子線の光路上にはハードカーボン、セパレータ、ナトリウム金属が存在しました。本研究では、S/N比を向上させるために、セパレータとナトリウム金属の中心をくり抜きドーナツ状へ変更することで、光路上に存在するパーツがモノリス炭素のみとなるように設計を変更しました。この結果、多くのナトリウムイオンがドーナツ状にしたナトリウム金属とセパレータの裏に挿入され、中性子ビームが当たるドーナツの中心の穴の部分に挿入されたナトリウムイオンが少なかったため、散乱強度の有意な差が確認できなかったと考えられます。
今回の結果を踏まえ、今後はセパレータとナトリウム金属の形状を円板状に戻し、先行研究と同じ条件で測定を行うことで、ナトリウムイオンの挿入過程を解明します。