J-PARC中性子実験装置で世界トップレベルのエネルギー高分解能と低ノイズを実現

2013.01.16

J-PARCセンター
一般財団法人総合科学研究機構

J-PARC中性子実験装置で世界トップレベルのエネルギー高分解能と低ノイズを実現

J-PARC1) センター(センター長 池田裕二郎)は、物質・生命科学実験施設(以下「MLF」)に設置されている中性子実験装置の1つである「ダイナミクス解析装置(DNA)2) 」の高性能高速ディスクチョッパー3)結晶アナライザー4) を独自開発することにより、世界最高レベルの3.0マイクロ電子ボルト5)エネルギー分解能6) を実現しました。また、測定ノイズを約10万分の1という、これまでにないレベルまで低減することにも成功し、今までノイズに埋もれて判別できなかった微弱な信号を捉えることができるようになりました。これらの性能値はJ-PARCセンターと一般財団法人総合科学研究機構(理事長 西谷隆義、以下「CROSS」)とが連携して行った実証実験により得られたものです。

この性能を活かすことで、これまで観測が困難とされていた生命機能の根源に関わる生体高分子の分子・原子レベルでの運動の観測を溶液中(生体に近い状態)で行うことが可能となり、生命現象の理解が飛躍的に進展すると期待されます。また、高性能電池の性能に関わる非水素系材料の伝導イオンの動きを原子レベルで観測することも可能となり、電池材料の性能向上などにも大きく貢献することが期待されます。

J-PARCは、光速近くまで加速した高エネルギー陽子を標的に衝突させ、核破砕反応7) によって生み出される大強度量子ビーム8) を利用して多様な実験を行う研究施設であり、このうちMLFは強力なパルス状の中性子を利用する研究施設です。現在18台の中性子利用装置が稼働しており、その中の1台であるダイナミクス解析装置(DNA)(ビームライン02:図1)は、タンパク質などの高分子の測定、機能性材料中の原子の運動、原子が持つ磁性の変化などを測定することを目的に設置された世界的にも注目されている装置です。

J-PARCセンターの中性子利用セクションは、装置の一部である結晶アナライザーを独自開発し、試料で散乱された中性子を計測器へ反射させるための単結晶シリコンウェハと、それをアルミ製球面ミラーに貼りつける接着剤の間に中性子吸収材を挟むことで、接着剤やアルミ製球面ミラーからの余計な反射(ノイズ)を減少させることに成功しました(図2)。また、株式会社神戸製鋼所と共同開発した高性能高速ディスクチョッパーは、素材に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を用いることで、300回転/秒の高速回転を実現することが可能となりました。

J-PARCセンターとCROSSが連携して本装置の性能試験を行った結果、エネルギー分解能3.0マイクロ電子ボルト、ノイズの低減(S/N比で約105 )という世界最高レベルのエネルギー高分解能と低ノイズが実証されました(図3)。これにより、これまで困難とされていた溶液中での生体高分子の観測が可能となり、より生体に近い状態で、生命現象の根源となるタンパク質を分子・原子レベルで観測することが可能となります。また、蓄電池に用いられるリチウムのような非水素系材料の伝導イオンの動きを直接観測することが可能となるため、リチウム電池の性能向上にも貢献が期待されます。

J-PARCセンターは、ダイナミクス解析装置(DNA)を含む18台の装置で課題公募(定期公募は2回/年)を行っており、これらの装置を民間企業、大学、研究機関等にも広く利用していただくことで、生命科学や物質科学分野で世界をリードする研究成果が創出され、材料開発や製品評価においても、これまで得られなかった新しい成果が生み出されることが期待されています。

本件に関する問合せ先

全体に関すること

J-PARCセンター
物質・生命科学ディビジョン長 新井 正敏(アライ マサトシ)
Tel: 029-284-5808Fax: 029-284-3889Email: masatoshi.arai@j-parc.jp

研究内容に関すること

一般財団法人 総合科学研究機構 東海事業センター
利用研究促進部 (ビームライン02装置責任者) 柴田 薫(シバタ カオル)
Tel: 029-284-3199Fax: 029-219-5311Email: k_shibata@cross.or.jp

報道担当

J-PARCセンター
広報セクションリーダー 坂元 眞一(サカモト シンイチ)
Tel: 029-284-3587Fax: 029-282-5996Email: shinichi.sakamoto@j-parc.jp

一般財団法人総合科学研究機構
東海事業センター 利用推進部 浅井 利紀(アサイ トシキ)
Tel: 029-219-5300Fax: 029-219-5311Email: t_asai@cross.or.jp

補足資料

図1. ダイナミクス解析装置(DNA)における測定の概念図

図1. ダイナミクス解析装置(DNA)における測定の概念図

図2. 単結晶シリコンウェハと接着剤の間に中性子吸収材を挟むことによって接着剤やアルミ製球面ミラーからの反射を低減させることに成功

図2. 単結晶シリコンウェハと接着剤の間に中性子吸収材を挟むことによって
接着剤やアルミ製球面ミラーからの反射を低減させることに成功

図3. 高分解能・低ノイズを確認したデータ

図3. 高分解能・低ノイズを確認したデータ

横軸は照射された中性子と試料との間で授受されたエネルギーの量を示す。エネルギーの授受がない(エネルギー遷移0[meV])時のピーク幅が狭いほどエネルギー分解能が高いことを示す。また中性子強度のピーク値(信号)と最低値(ノイズ)の比が大きいほどS/N性能が高いことを示す。この実験データからはエネルギー分解能3.0マイクロ電子ボルト、S/N比約105という結果が得られた。
(試料:γ―ピコリンN-オキシド)

用語解説

J-PARC (Japan Proton Accelerator Research Complex : 大強度陽子加速器施設)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で茨城県東海村に建設した陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることによって発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用を実施。
また、J-PARCを運営する組織としてJ-PARCセンターが設置されている。
ダイナミクス解析装置(DNA)
物質・生命科学実験施設(MLF)のビームライン02に設置されている中性子ビームを利用するための装置の1つ。タンパク質、核酸、糖質などの生体高分子、機能性材料中の原子の運動などを測定することを目的に設置された世界的にも注目されている装置。

ダイナミクス解析装置

高性能高速ディスクチョッパー
パルス中性子を成形してパルス幅を短くするための装置。株式会社神戸製鋼所と共同開発し、直径は約70cmで、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で製作されており、300回転/秒の高速回転にも耐えることができる。

ダイナミクス解析装置

結晶アナライザー
試料で散乱した中性子の中から特定のエネルギーだけを持つ中性子を選択的に検出器へ反射させるための装置。

結晶アナライザー

電子ボルト
エネルギーの大きさを表す単位の一つで、エレクトロンボルト(eV)とも言う。1電子ボルトは1ボルトの電圧で加速された電子1つが得るエネルギー。
エネルギー分解能
どの位接近したエネルギーが分離観測できるかを示す性能。
核破砕反応
加速器などを用いて約1億電子ボルト(100MeV)以上の高エネルギーにまで加速した陽子を、水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン、炭素等の標的に入射すると、高エネルギー陽子が標的中の原子核と激しく衝突し、そのエネルギーで標的の原子核をバラバラにする。バラバラになった原子核から中性子、中間子などの多数の二次粒子が放出される反応を核破砕反応と呼ぶ。

核破砕反応
http://j-parc.jp/ja/P-Room/Equipment/Equipment-j0912.html

量子ビーム
高エネルギー陽子を標的核に衝突させると、二次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどが生成される。それらの粒子を総称して「量子」と呼び、ビームとして利用する。