2024.04.12
【開催報告】放射光(SPring-8)と中性子(JRR-3)の両実験施設での測定実習による
「第9回放射光・中性子の連携利用に向けた合同研修会(小角散乱測定研修会)」
産学連携室・研究開発部 岩瀬裕希
高輝度光科学研究センター(JASRI)とCROSSは、SPring-8とMLFの横断的な利用促進の一環として、「放射光・中性子の連携利用に向けた合同研修会」を開催しています。本研修会では「小角散乱測定」をテーマに取り上げ、両施設で研修を行いました。
この研修会の特徴は、参加者が自分の興味を持つ測定試料を両施設に持ち込み、小角散乱測定実習を行えることです。「小角散乱測定」の研修会は4回目で、毎回多数の参加希望者があり、好評を得ています。利用者のニーズに応えるため、新たな取り組みとして、事前講習会と研究用原子炉JRR-3での実習を行いました。
事前講習会は2023年8月2日にオンラインで行われ、CROSS中性子科学センターの柴山充弘センター長に小角散乱法の原理、放射光X線と中性子の違い、解析方法、実験装置、研究例について紹介していただきました。93人の方に参加頂きました。
次に、10月13日(金)には、SPring-8で北海道大学の大沼正人教授による小角散乱の座学とBL19B2ラインのX線小角散乱(SAXS)装置を用いた実習が行われ、その後、11月21日(火)には、JRR-3の中性子小角散乱装置(SANS-J)で中性子小角散乱(SANS)の実習が行われました。参加者は4グループ12名でした。
中性子の研修会では、2つのグループに分かれて、(1)SANS-Jでの実習、(2)J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)において、中性子小角・広角散乱装置「TAIKAN」を含む各装置などの施設見学を行いました。実習では各自が持参した試料を測定しました。ソフトマター試料では、水を含む高分子材料の測定が行われました。水と高分子のX線に対する散乱能(散乱長密度または電子密度)がほぼ同じなため、コントラストが非常に低くなります。しかし、中性子では軽水素と重水素の散乱能が大きく異なる特徴を利用し、重水を使用することで水と高分子のコントラストを増加させることができます。これにより、高分子材料のナノ構造を明確に観測することができました。また、金属材料の測定では、X線の実験では透過率を確保するために試料厚みを数十マイクロメートルに薄くする必要がありますが、中性子実験では1~2ミリメートルの厚みのバルク試料の構造解析が可能であることを確認し、中性子の物質透過性に優れているという特徴を実感してもらいました。
実習には、JASRIのスタッフも参加し、測定データの解析や解釈の仕方、引張試験機や調湿装置などの試料環境機器を使用したSANS測定の可能性についても一緒に議論をしました。今回の研修会をきっかけに、参加者が新たな中性子利用者、中性子・放射光連携利用者となってもらえることを期待します。今回の合同研修会において、日本原子力研究開発機構・物質科学センターの熊田高之博士、元川竜平博士、上田祐生博士にはSANS-Jでの実習に多大なご尽力を頂きました。この場をお借りして御礼を申し上げます。