第2回センター長表彰を岩瀬氏、松浦氏受賞

2020.11.04

第2回センター長表彰を岩瀬氏、松浦氏受賞

表彰式の様子。左から岩瀬氏、柴山センター長、松浦氏。

 CROSSは、昨年度中性子科学センター長表彰を創設しました。本表彰は、中性子科学センターに勤務する職員等の中で顕著な功績を挙げたものに対し、その功績をたたえ、感謝の意を表し、中性子科学センターが担う業務の更なる推進を図ることを目的としています。
 今年度の受賞者は岩瀬裕希氏と松浦直人氏で、2020年10月27日、いばらき量子ビーム研究センターにて表彰式を行いました。第2回の今年度は、受賞者に表彰状と盾が贈られ、受賞講演が行われました。

研究開発部 産学連携推進室(兼務) 岩瀬裕希(副主任研究員)

受賞テーマ:中性子共用ビームライン「大観」の利用促進への貢献

表彰式 賞状・盾の授与

大観にレオメータシステムを設置した様子

受賞理由

岩瀬副主任研究員は、中性子共用ビームラインの利用促進に大いに貢献しました。特にトライアルユース制度や新利用者支援制度に基づき、中性子小角・広角散乱装置「大観」の産業界及び学術界の新利用者の開拓を強力に推進するとともに、レオメータシステムの導入などの利用ニーズに応える実験環境の積極的な整備、丁寧な利用支援により、2018年以降の約2年半に自身の先導的研究[1]を含めて24報に及ぶ多くの利用論文成果の創出に貢献、さらに多くの若手研究者を指導し、博士号や修士号の取得に導く人材育成に努めました。

以上のように、岩瀬副主任研究員の活動は中性子共用ビームライン「大観」の利用促進に大いに寄与するものであり、中性子科学センター長表彰の受賞に値すると認められました。

[1] H. Iwase et al., J. Colloid Interface Sci. 538, 357 (2019), 他.

研究開発部 松浦直人(副主任研究員)

受賞テーマ:分子性有機物質の中性子非弾性散乱研究の推進

受賞講演の様子

分子性有機物質の格子励起シグナルと実験試料

受賞理由

分子性有機物質は分子の組み合わせで無機物質では得られない多様な構造や物性を示すが、一般に大きな単結晶を得ることが難しく、その物性を理解するための中性子非弾性散乱を用いた格子励起の観測は例外的に大きな単結晶が得られる物質に限られていました。

松浦副主任研究員は、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授、CROSSの中尾朗子副主任研究員らと分子性有機物質κ-(BEDT-TF2Cu[N(CN)2]Clの格子励起と結晶構造の精密観測を僅か10mgの単結晶を用いて行い、電子誘電性と結合して異常に大きく減衰する格子励起を世界で初めて発見するとともに、一般の強誘電体で見られる転移温度以下での格子の対称性の低下が本物質では見られないことを明らかにしました[1, 2]。本研究は、中性子強度が高い仏国ラウエ・ランジュバン研究所及び独国ミュンヘン工科大学の研究用原子炉の分光器、J-PARCのSENJUを用いて実現したもので、研究用原子炉とパルス中性子実験施設を相補利用した先導的研究としての意義も大きいです。

以上のように、松浦副主任研究員の研究は分子性有機物質の中性子非弾性散乱研究の可能性を大いに拡げるものであり、中性子科学センター長表彰の受賞に値すると認められました。

[1] M. Matsuura et al., Phys. Rev. Lett. 123, 027601 (2019).
[2] 松浦直人他, プレス発表, 2019年8月8日. https://neutron.cross.or.jp/ja/news/press/190808pre/