飯田氏、中性子科学会奨励賞を受賞

2020.11.27

飯田氏、中性子科学会奨励賞を受賞

研究開発部の飯田 一樹氏が今年度の日本中性子科学会奨励賞を受賞しました。この賞は中性子科学に関して優秀な研究を発表した40歳未満の若手に授与されるものです。受賞式及び受賞講演は日本中性子科学会第20回年会の期間中の11月9日(月)及び10日(火)に新型コロナウィルス対策のためオンラインで行われました。

授賞理由

非従来型の超伝導では磁気揺らぎが超伝導に関与することが知られている。その代表的現象に特定の波数とエネルギーで起こるspin resonanceがあるが、非従来型超伝導体ではフェルミ面が複雑であるために、これが逆格子空間のどこに現れるかの予想が難しい。パルス中性子チョッパー分光器は広いエネルギー範囲で逆格子空間を広くカバーできるので、磁気励起の全体像を捉えることができる。飯田氏はこのパルス中性子チョッパー分光器の特性を生かし、MLFの4SEASONSとAMATERASやORNLのARCSなどを用いて、典型的な非従来型の超伝導体であるSr2RuO4とCaKFe4As4などの鉄系超伝導体のspin resonanceを詳細に観測し、そのスペクトルの波数依存性から超伝導ギャップに現れるノード構造を明らかにし、超伝導波動関数の対称性を絞り込むことに成功した。以上の成果は超伝導の研究に中性子散乱実験が重要な役割を果たすことを示したもので、日本中性子科学会奨励賞に十分値するものと認められた。

研究の概要

パルス中性子源を用いた非従来型超伝導の磁気揺らぎの研究

研究開発部 飯田 一樹

非従来型超伝導体ではBCS理論の枠組みを超えた磁気揺らぎを媒介とする超伝導が実現していると考えられている。遍歴電子系の磁気揺らぎはFermi面の形状に由来しているが、磁気揺らぎの波数ベクトルを理論的に予測することは現在でも難しい。そのため非従来型超伝導の研究では、広範囲の逆格子空間での磁気揺らぎの測定に適しているチョッパー型分光器が大きな役割を果たしてきた。私はパルス中性子源に設置されたこのようなチョッパー型分光器を用いて非従来型超伝導の研究を行ってきた。

Sr2RuO4は最も有名な非従来型超伝導体の1つであるが、非従来型超伝導体の特徴である中性子スピンレゾナンスがこれまで観測されてこなかった。そこで私はJ-PARCに設置されているチョッパー型分光器AMATERASを用いてSr2RuO4の磁気揺らぎを測定し、チョッパー型分光器の特性を活かすことで、Sr2RuO4の中性子スピンレゾナンスの観測に初めて成功した (Fig. 1)。この結果はSr2RuO4の超伝導ギャップが水平ラインノードを持つことを示唆しており、Sr2RuO4の超伝導対称性の決定に重要な役割を果たすことが期待される [1]。

[1] K. Iida et al., J. Phs. Soc. Jpn., 89, 053702 (2020).

Fig. 1. Sr2RuO4の磁気揺らぎの(a)エネルギー依存性と(b) Q 依存性。ピンクで示した領域が中性子スピンレゾナンスに対応 [1]。