「波紋 PRESIDENT CHOICE」賞を受賞

2018.12.19

「波紋 PRESIDENT CHOICE」賞を受賞

授賞式の様子。左から伊藤 崇芳氏、桐山 幸治氏、日本中性子科学会長の鬼柳 善明氏。

研究開発部の桐山 幸治氏、伊藤 崇芳氏、松本 吉弘氏が日本中性子科学会の「波紋 President Choice」賞を受賞しました。この賞は日本中性子科学会の機関紙「『波紋』に掲載されたサイエンス記事、特集記事、技術開発記事、入門解説記事、教育記事の中から2年毎に会長が選定します。今回は2016年11月号から2018年8月号までに掲載された80本を超える記事の中から5件が選ばれました。

桐山氏、伊藤氏は2018年12月5日(水)に茨城県立県民文化センターで開催された日本中性子科学会第18回年会で授賞式に臨みました。

「中性子実験用アルミニウム製試料セル設計のためのアルミニウム薄肉円筒の強度試験」

桐山 幸治氏、伊藤 崇芳氏(Vol. 27, No. 4, p. 148, 2017)

J-PARC MLFの一部の中性子実験では薄肉円筒状のアルミニウム試料セルが使用されています。これらを最適に設計するために純アルミニウム製とジェラルミン製の様々な寸法の円筒試験片の引張試験を行い、条件ごとに円筒の強度と寸法や加工方法等の影響の有無やその程度を検証しました。

この結果、加工方法による影響は限定的であると考えられ、また寸法効果もほぼ無いと考えて良いことが分かり、材料検査成績書の引張強さの値から最大許容応力を見積もることができると判断できました。今回得た情報を基に純アルミニウム及びジュラルミンの許容最大圧力、試験片の厚さ、内径のいずれか2つのパラメータを決定した際に、残りの1つのパラメータを簡便に算出することのできるウェブページ(詳細、論文参照)を公開しました。今後も異なる材料や条件での試験を計画したいと考えています。

中性子イメージングを活用した蒸発器内における冷媒沸騰挙動の解明」

布施卓哉氏、岡村徹氏、井上誠司氏、松野孝充氏、岩田隆一氏、山内崇史氏、志満津孝氏、松本吉弘氏、篠原武尚氏、甲斐哲也氏、上田健氏、村尾浩二氏(Vol. 28, No. 2, p 94, 2018)

自動車の車内快適性を向上するアイテムとしてカーエアコンが装備されています。近年、車両の電動化や省燃費化が国内外で盛んに行われており、カーエアコン・ユニットの小型化が求められています。ユニットを構成する装置の内、冷熱生成を担う蒸発器(エバポレータ)の体格が比較的大きく、その小型化が有効であると考えられています。蒸発器の小型化には流路内部で生じる冷媒の沸騰挙動の把握がもっとも重要なポイントとなります。しかし蒸発器の流路はアルミニウムなどの熱伝導率の高い金属で作られており、流路内部の様子を直接観察することは非常に困難でした。

本研究ではカーエアコン・ユニットを模した実験装置を製作し、実際にカーエアコンが動作している状態の蒸発器内部を、中性子イメージング法(ストロボ撮像)を用いて非破壊での可視化を試みました。結果として、冷媒流路の明暗部の差から液相と気相の判別が可能であることが分かりました。また液飛びや瞬時蒸発などの特異な冷媒沸騰挙動を初めて捉えることができ、冷媒流動の解明に大きく近づくことができました。今後、イメージング画像の明度と密度の関係の明確化に取り組み、数値計算や温度計測と合わせて蒸発器の設計に反映できるように取り組んで行きたいと考えています。