CROSS研究生滞在報告 東北大学 梅本氏、川又氏
研究開発部 大石一城
2021年4月~2022年3月の期間にわたり、東北大学大学院理学研究科 博士後期課程2年の梅本好日古さん及び同大学大学院理学研究科 博士前期課程2年 川又雅広さんが、CROSS研究生として、J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF) BL15中性子小角・広角散乱装置「大観」での中性子実験、及びいばらき量子ビーム研究センター(IQBRC)にあるユーザー実験準備室で研究活動を行いました。
梅本さんの研究テーマは、「鉄マンガン基合金における恒弾性特性の起源解明」です。また、川又さんの研究テーマは、「中性子や放射光を用いたカイラル磁性体の研究」です。二人の研究テーマは異なりますが、「大観」を利用して実験を行いたい!という熱い思いから、各々が実験課題責任者としてJ-PARC MLFへ実験課題申請を行いました。
梅本さんの実験では、電気炉を用いて鉄マンガン基合金を室温から200℃の範囲で温度制御する必要がありました。「大観」での実験に先立ち、IQBRCユーザー実験準備室にて、電気炉の条件出しを行い、中性子実験で実施する温度の最適条件を決定しました。「大観」の実験では、モリブデン添加量の異なる3種類の鉄マンガン基合金の中性子小角・広角散乱実験を行いました。その結果、中性子小角散乱プロファイルに温度依存性が見られないことから、X線非弾性散乱で観測されたフォノン異常や恒弾性特性の発現は、少なくとも数十から数百nmサイズの析出物の影響に寄るものではないことが分かりました。
川又さんの実験では、4T超伝導磁石を用いての実験でした。試料を冷凍機にセットしたのち、超伝導磁石及び冷凍機の冷却作業など、中性子実験に至るまでの過程も一緒に作業しました。「大観」の実験では、川又さんが事前に測定して決定していた磁気相図を基に温度、磁場条件を変えて測定を行い、磁気反射の観測に成功しました。
上記実験とは別に、2022年1月及び同年3月に、CROSS開発課題の「偏極解析によるカイラル磁性体の探索」及び「中性子準弾性小角散乱実験手法の開発」に参加してもらいました。これらの実験は、二人の研究テーマとは異なるテーマのものでしたが、「大観」の装置の構成・特徴の詳細や偏極解析装置の原理など、二人とも興味を持って積極的に実験に参加していました。2022年3月11日には、CROSS研究生のまとめとして、オンラインと会場のハイブリットで成果発表会を行いました。二人の研究を深化させる熱意と中性子実験装置への興味などがとても良く伝わる発表会でした。また、私たち中性子実験装置のビームラインスタッフの仕事について、大学院生(これから就職される若手)の目線でコメントいただけたことは、とても新鮮で印象的でした。
梅本さん及び川又さんには、CROSS研究生として自身の研究活動に加えてビームラインスタッフの体験をしていただきました。二人にとって、これらの経験がこれからの研究生活を進めていく上で少しでも役に立つものであったとすれば幸いです。
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