CROSS研究生滞在報告
研究開発部 阿久津 和宏
「中性子反射率実験(課題番号2022A0041)で実施した時分割測定データの処理方法と、反射率解析ソフト『Motofit』によるデータ解析方法を修得したい。」と言う志望動機を持って東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 修士課程1年 横山 裕大さんが、CROSS中性子科学センター研究生として、2022年6月28(火)〜30日(木)に実習を行いました。
実習内容
横山さんは、高分子化学・電気化学の研究を専門としていますが、量子ビームを利用した実験は本年6月の中性子反射率実験が初めてであったため、初日の午前中は阿久津が量子ビームと中性子反射率の基礎に関する講義を行い、中性子反射率法に関する理解を深めて貰いました。午後からは、BL17写楽にて6月の実験で測定した中性子反射率データの時分割データ処理を実施しました。時間分割幅を変えながら複数のデータの処理を繰り返し実施することで、実験データ解析に適した分割幅を見出し、構造解析に最適な時分割データを取得できました。
実習2日目からは、反射率のFitting解析ソフト『Motofit』を用いたデータ解析を実施しました。その結果、実験前には想定していなかった薄い膜が基板表面上に形成されていることを見出しました。2日目の午後には、BL17写楽にて装置担当者の笠井聡氏と次回の実験のためのオペランド反射率測定に用いる電気化学実験用ハードウェアのキャビンからの遠隔制御方法に関する打合せを行いました。さらに、2日目の夕方には、BL15大観の装置責任者の鈴木淳市氏による中性子小角散乱(SANS)法の基礎と応用に関する講義を受講し、SANS法による多孔質高分子膜の構造解析に関する理解を深めました。
最終日の午前中は、2日目に引き続きMotofitによるデータ解析を実施しました。午後はデータ解析結果の確認と実習報告会用の発表資料作成を行い、夕方の実習報告会では、柴山センター長、東京大学伊藤准教授ら参加者と発表内容に関する討論や高分子膜合成に関する有意義な意見交換を行いました。
CROSS研究生実習を終えて
横山さんには、今回の実習で中性子反射率のデータ処理及びFitting解析の方法を修得して貰いました。電極界面に数nm程度の未知の層が形成されていたため、当初の想定とは異なり、データ処理及びFitting解析を実験データに対して包括的に整理・分析しながら進める必要がありましたが、横山さんはそれに難なく対応し、最終的にはデータの合理的な解釈を導くことができました。普段の研究で取得したデータを詳細に把握しているからこそこのような対応が可能であったと思います。
今回の実習では、これまでに身に付けた基礎的な研究力を遺憾なく発揮し、ナノ薄膜形成プロセスに関する新しい知見を見出すことができました。この実習の結果は、CROSSにとっても有意義なものとなりました。
まとめ
CROSS及びBL17写楽にて、中性子反射率データの処理と解析を行いました。時分割実験データの処理では、時間分割幅を1~15分まで変化させたデータを分析し、最適な分割幅が15分であることを突き止めました。さらに、時分割データを含めた複数の反射率データのFitting解析を実施し、これまで未知であった基板上に形成される特異な薄い膜の存在を見出しました。この発見については追加データの取得と検証が必要であり、実習終了後も引き続き連携して研究を進める予定です。