Workshop: CROSSroads of Users and J-PARC 第18回「偏極ターゲットと偏極中性子技術開発」開催
2016年6月15日(水)いばらき量子ビーム研究センターで、Workshop: CROSSroads of Users and J-PARC 第18回「偏極ターゲットと偏極中性子技術開発」が開催され、8人の発表があり41人の参加がありました。CROSSroadsはCROSS東海がJ-PARC/MLFと共催する研究会で、MLFにおける中性子利用研究開発や研究利用支援に関する情報提供を行い、利用者からの具体的な要望や研究提案を受け、インパクトの強いオリジナルの成果を生み出すため活発に議論することを目的としています。
最初に理化学研究所 仁科加速器研究センターの上坂友洋氏によるトリプレットDNP(Dynamic Nuclear Polarization)についての基調講演がありました。
トリプレットはスピンが温度に依存せずに偏った状態である光励起三重項電子を意味し、DNPは動的核偏極の略です。位置選択的同位体置換されたp-ターフェニル(またはナフタレン)を試料に添加し、レーザーを照射すると、p-ターフェニルは電子が励起された状態になり、一部は励起三重項状態に変化します。励起三重項状態から基底状態へと遷移する前にマイクロ波を照射することで、電子スピンと試料の水素核スピンの偏極率が交換され、水素核スピンの偏極率を常温で41%にあげることができます。この値は通常の10万倍にもなります。この手法によって偏極された水素核を中性子ビームのフィルターとして使うことにより、原子核実験に使えるようなエネルギーの高い偏極中性子ビームを作れるようになります。
上坂氏は「このような手法は今後広まっていくでしょう。ぜひ一緒に活用方法を考えていきましょう」と呼びかけました。
茨城大学の能田洋平氏は、タイヤゴムの成分であるSBR(Styrene-Butadiene Rubber、スチレン-ブタジエンゴム)の水素核を安定ラジカルTEMPOを用いてDNP法によりスピン偏極し、コントラスト変調中性子小角散乱法によってナノ構造解析した結果を話しました。原子力研究開発機構(JAEA)の熊田高之氏は、スピンコントラスト法を反射率にも展開し始めています。また、スピンコントラスト法で測定しやすい、成分間で水素密度が大きく異なる複合材料試料の提供を呼びかけました。
高エネルギー加速器研究機構の猪野隆氏は、核偏極した3Heガスが中性子スピンフィルターとなることを説明し、現在建設中のBL23「POLANA」で用いられる3He中性子スピンフィルターの開発状況について報告しました。東北大学の南部雄亮氏はPOLANOの現状報告とPOLANOを用いた今後の研究展望について話しました。CROSS東海の林田洋寿氏からは「BL22『RADEN』で磁気イメージングの環境が整い、駆動中のモーターの磁場挙動可視化などを始めたところです」との発表がありました。CROSS東海の吉良弘氏はBL15「大観」、BL17「写楽」、BL18「千手」での3He中性子スピンフィルターの開発現状について報告しました。
茨城大学の小泉智氏は茨城県構造解析装置BL20「iMATERIA」での小角散乱について「検出器を再配置した結果、観測範囲がqmin =0.007Å-1となり本格的なユーザー利用を開始しました」と報告しました。また茨城県と共同で動的核スピン偏極ターゲット(7テスラ)を建設し、H28年度末より、スピンコントラスト変調の産業利用を開始する計画についての報告もありました。
質疑応答では参加者から多くの質問が寄せられていました。
ワークショップの最後に世話人代表のCROSS東海 加倉井和久氏が中心となってコメント及び議論が行われ、参加者は偏極ターゲットと偏極中性子技術開発の将来の展望について活発に討論しました。
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