CROSS研究生体験記

2021.01.25

CROSS研究生体験記

山形大学 理工学研究科
博士後期課程2年 三浦大輔

私は2020年12月11日から21日までの10日間、一般財団法人総合科学研究機構(CROSS) 中性子科学センターに研究生として滞在し、偏極中性子に関する実習に取り組みました。

実習の様子


私はJ-PARC MLF BL15、BL17を利用して偏極中性子と水素核偏極試料を用いたソフトマテリアルの構造解析法の開発を行っています。スピンコントラスト法は、ソフトマテリアルに含まれる水素の散乱長が水素の核スピンと中性子スピンの方向により変化する特徴を用いる手法であり、水素の核スピンの偏極度を任意の値に変化させることで、1 つの試料からその偏極度に応じた複数の散乱スペクトルを得ることができます。私はこれまでの中性子実験では試料作製および散乱スペクトルの測定・解析が主なものであり、中性子光学系や偏極中性子光学系の調整等を行う機会はほとんどありませんでした。そこで、今回の実習ではBL17の中性子光学デバイスの調整実験に参加することで、各デバイスとその意味について学びました。

今回の中性子光学デバイスの調整の目的は、長波長偏極中性子の偏極度の確認と最適化であり、私はデータの測定と解析の一部を実施しました。スピンコントラスト反射率法では、より長波長の中性子を使えると扱える試料の選択肢を広げることができるため、長波長偏極中性子用の調整は自分自身の研究に対しても非常に有益です。実習では、波長レンジを拡げるダブルフレームモードを使用する際の偏極中性子の振る舞いの評価に取り組みました。ユーザーとしては使うことのないデバイスや初めての解析に戸惑いながらも、実験を遂行し、結果をまとめることができました。ダブルフレームモード使用時は、シングルフレームモードの2倍の波長の長波長偏極中性子を使える予想を立てましたが、1.25倍に止まる結果となりました。その理由は偏極子が現状のセットアップに最適化されているためと考察しました。そして、偏極子の角度調整を行えれば長波長偏極中性子の利用を最適化できる可能性があるのではないかと思いました。

報告会の様子

今回の研究生の体験は、専門分野外の中性子実験装置群での実験、解析、議論をすることで、これまで経験したことのない新たな知見を得ることができ、非常に有意義な機会となりました。実験だけでなく、BL15 での偏極中性子デバイスの開発からインストールに至るまでの講義もしていただき、私が実習で使ったBL17 の偏極中性子デバイスとの比較をすることで各デバイスの特徴に関して理解を深めることができました。また、CROSSの方々と中性子に関する議論を重ねることで、中性子の特徴を再認識するとともに、普段研究で使用しているスピンコントラスト法の課題や将来構想等にフィドーバックすべき点も改めて議論することができ、専門分野の研究遂行のモチベーションにもつながり、非常に有益な経験をすることができました。

最後になりましたが、今回の実習及び諸手続き等を支援して下さいました皆様に深く感謝申し上げます。

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