CROSS研究生滞在報告 東海大学 能登勇真氏
中性子反射率法によるアモルファスGeS2への銀のフォトドーピングの研究―中性子反射率データの解析
研究開発部 坂口 佳史
東海大学大学院工学研究科電気電子工学専攻の能登勇真さん(修士課程2年生)は、東海大学渋谷教授の研究室で、アモルファスGeS2への銀のフォトドーピングの研究を行っています。2022年7月には、東海大学で測定した光照射したAg/GeS2薄膜のX線反射率データの解析をするため、CROSS研究生として5日間、CROSSに滞在されました。その後、この結果の検証を行うべく、渋谷研究室のグループメンバーは、2022年12月11~12日にMLF BL17 (写楽)において、Ag/GeS2薄膜に光照射しながら時間分解中性子反射率測定を行いました。能登さんは、そのとき取得した中性子反射率データの解析を、2023年1月10~13日、2月6~10日の2回にわけ、CROSS研究生としてCROSSに滞在し実施されました。また滞在中、その後行ったX線反射率測定のデータ解析も行いました。
MLFで取得されるデータは、イベントレコーディングといって、検出する中性子すべてにタグ付けがなされており、中性子反射率データを得るにあたっては、元データからヒストグラム化するデータリダクションのプロセスが必要です。今回の場合、このデータリダクションのプロセスで、取得時間幅を指定し、時間分解データの取得を行います。能登さんには、このデータリダクションからやっていただきました。続いて、3つのサンプルの時間分解中性子反射率測定結果のフィッティング解析を行いました。1つのサンプルについては、10以上に時間分解した反射率データがあり、それら1つ1つについてフィッティング解析を行います。真空蒸着により製作された二層薄膜は、光照射前の状態では、ほぼ想定した膜構造であることがフィッティング解析から確認できます。しかし、光照射後、膜構造がどのように時間変化していくか、正確なことはわかっておらず、それゆえ、中性子反射率測定で明らかにしようとしています。実際、フィッティングをやっていくとうまく合わずに、予想とは大きく異なっていることがわかることが往々にしてあります。今回が正にそのケースで、“こうなっているのではないか”と、様々に予想してはフィッティングし、その結果を見て、薄膜モデルの再検討を繰り返し行いました。その薄膜モデルの再検討の過程において、もっともらしい銀のフォトドーピングメカニズムを考え、また、反射率データプロファイルの形状が示す物理的な意味を考える必要がありました。今回のデータ解析は大変な難題であり、連日、夜遅くまでの解析が続きましたが、この合計2週間の解析で非常に良い精度でのフィッティング解析ができました。これも能登さんの努力の賜物であり、また、研究者として大きく飛躍した2週間になったと思います。
後記:その後、能登さんは、これまでのCROSS研究生滞在期間中に得たX線・中性子反射率測定解析結果のうちX線反射率測定の結果をまとめ、2023年3月16日、第70回応用物理学会春季学術講演会、非晶質セッションで口頭発表を行いました。