【開催報告】J-PARC Workshop
1 MWパワーで探れ、非晶質の中の小さな不思議―「自由」と「束縛」の協奏曲―
J-PARC Workshop構造不規則系研究会 実行委員会
坂口佳史(CROSS)(代表)、川北至信(JAEA)中村充孝(JAEA)、服部高典(JAEA)、
本田孝志(KEK)、中村惇平(KEK)、廣田夕貴(KEK)、根本恵子(JAEA)、大内裕子(JAEA)
2024年10月28日(月)~30日(水)に、AYA’S LABORATORY量子ビーム研究センター(茨城県那珂郡東海村)2階大会議室において、J-PARCセンター、材料学会金属ガラス部会、CROSS共催のもと、J-PARC Workshop“1 MWパワーで探れ、非晶質の中の小さな不思議―「自由」と「束縛」の協奏曲―”が開催されました。
J-PARCの陽子ビーム出力は、設計値の1MWをほぼ達成(950kW運転)いたしました。”1MW時代”の利用実験が現実のものとなった今、この大強度ビームを用いた新しいサイエンスの到来が期待されています。液体やガラスといった非晶質物質の静的、動的構造物性研究では、中性子が有用なプローブである一方、得られるシグナルが弱いことが課題でした。そのため、非晶質物質研究は、1 MWパワーによって新しい展開が期待される分野であるといえます。
非晶質物質中の原子は、ガスのように自由奔放に動き回れるわけではなく、原子同士で束縛し合いますが、その一方で、結晶のような格子からの束縛はなく、原子配置に自由度のあるのが特徴です。この「自由」と「束縛」とのせめぎ合いの中で、ガスや結晶にはない、ユニークな静的、動的構造上の性質が発現されるのがこの系の面白いところです。例えば、これまで、液体といえば、水を見てもわかるように、どこを見ても、取り出しても均質で、原子レベルでも均質に配列していると考えられていたのですが、近年、ある種の状態下では、外見には均質でも、原子レベルでは、ゆらぎが生じ、不均質な配列をすることがある、という説も出てきました。このような原子レベルの世界にうまれる”小さな不思議”の謎を解き明かしていくことは、J-PARCの中性子・ミュオン実験装置が得意とするところです。本研究会では、今後、J-PARCの1 MWパワービームでこの “小さな不思議”を解明していくことを念頭に、中性子はもとより、放射光、電子線を用いた実験やシミュレーションの立場からこの “小さな不思議”の解明に挑む新進気鋭の研究者に集まっていただきました。
参加者は58名(オンライン講演による参加者1名を含む)、講演は27件、ポスター発表は10件でした。MLFの実験装置を紹介する施設紹介の講演では講演は20分、質疑応答は5分として、一般講演では講演は30分、質疑応答は10分という時間配分で行いました。発表者の研究内容を聴講者がよく理解できるよう十分な講演時間を設け、且つ十分な議論ができるように質疑応答の時間を設定いたしました。その甲斐があり、研究会では終始活発な議論が行われました。ポスター発表でも、終始、発表者の周りには聴講者がいて、熱い議論がなされており、聴講者が途切れることはありませんでした。
今回の研究会への参加により、自身の研究に中性子利用を取り入れようと積極的に考える研究者がいた他、最先端の放射光実験からの触発を受けて、放射光ではできない中性子やミュオンの特徴を活かしたMLFの利用研究を考えるきっかけが得られた方もおりました。さらに、シミュレーションの専門家の参加により、実験研究と計算物理のそれぞれの特徴を認識し、物性理解を深める手法に関心が集まりました。2日目午後には、22名の希望者がMLF見学を行いました。MLFへの訪問が初めての方が多く、MLFの見学を楽しまれたようでした。
現地実行委員:五十嵐美穂、石角元志、上田実咲、大江良昌、大内啓一、張朔源、新妻秀之、森川利明(CROSS)