集団拡散と協同拡散

最終更新日:2026.1.12

物理や化学では「拡散」という用語がしばしば出てきます。文字通り、「拡がって散らばる」現象を意味するのですが、「何」が散らばるのか、「どのように」散らばるのか、によってさまざまな「拡散」現象があります。ここでは、ゲルにおいて重要な集団拡散と協同拡散について考えてみましょう。


 

世の中にはいろいろな拡散があります。物理・化学・材料学では、自己拡散(閉じ込められた容器から真空中に放たれた分子の拡散など)と相互拡散(壁で隔たれた2つの容器の中の異なる物体が壁を取り除いたときに相互に混ざり合っていく現象)という対照的な拡散現象が知られています。また、生物学・栄養学では、分子が濃度勾配に従って受動的に移動する現象「単純拡散」と (simple diffusion)と細胞膜のイオンチャンネルなどに見られる膜に埋め込まれた輸送タンパク質の助けを借りて物質が移動する「促進拡散 」(facilitated diffusion)があります。ゲルにおいては、集団拡散(collective diffusion)と協同拡散(cooperative diffusion)が重要ですが、その違いについてはあまり認知されていません。筆者は、最近AI先生に相談し、ようやくその答えに辿り着きました。

集団拡散(collective diffusion)は多数の粒子がシステム全体として、高い濃度から低い濃度へと広がる現象で、粒子同士の反発や引力が、集団としての広がる速さを加速させたり鈍らせたりする点に特徴があります。インクが紙に滲んでいく様子やゲルが膨潤していく様などがこれに相当します。一方の協同拡散(cooperative diffusion)は、ある粒子が動くために周囲の粒子が道を開けるように同調して動く現象で、一人が動くために周りも一緒に動かなければならない「窮屈な系」でよく使われます。満員電車から降りるときに周囲の人が少しずつズレて道を作ってくれるような動きは一種の協同拡散、ですね。満員電車の霊の如く、高分子やガラスのように高密度(高粘度)の系に見られる拡散現象です。

項目 Collective Diffusion (集団) Cooperative Diffusion (協同)
ポイント 濃度勾配の解消(マクロ) 粒子間の運動の相関(ミクロ)
推進力 化学ポテンシャル勾配 周囲との相互作用
主な分野 輸送現象、溶液化学 高分子物理、ソフトマター、ガラス転移
イメージ 「集団が薄い方へ流れていく」 「周りと呼吸を合わせて動く」

MITの故田中豊一教授は、ゲル網目の集団拡散理論(Tanaka-Fillmore theory, 1979)を提案し、ゲルの膨潤現象をみごとに記述しました。すごいですね。