「専用ビームライン 中間評価」について(2023年度)

「専用ビームライン 中間評価」について
Interim Review Results of Contract Beamlines

J-PARC/MLFの専用ビームラインは、(独)日本原子力研究機構、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構以外の設置者が、その利用目的に添った計画を立案し、登録施設利用促進機関であるCROSSに設置した専用施設審査委員会および選定委員会において「中性子線専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき検討評価され、選定されます。
現在、J-PARC/MLFには茨城県による2本の専用ビームラインが稼働中です。設置が認められた専用ビームラインは、専用施設審査委員会が、その使用状況および研究成果等を定期的に評価し、選定委員会の審議を経て必要に応じて登録機関が専用ビームラインの改善、更新、撤去等を勧告します。

専用施設審査委員会の諮問を受けた中性子実験装置中間評価分科会により2023年10月から11月にかけて、下記2本の専用ビームラインの評価が実施されました。その答申を基に2024年1月に専用施設審査委員会および2024年2月に開催された選定委員会において審議され、引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ました。審査結果はCROSSから、設置者である茨城県へ通知いたしました。

中間評価の審査結果は下記の通りです。

2023年度 中間評価実施専用ビームライン

  1. 茨城県生命物質構造解析装置(BL03) : (設置者:茨城県)
  2. 茨城県材料構造解析装置(BL20) : (設置者:茨城県)

装置名:BL03(茨城県生命物質構造解析装置)

当初計画の視点では、すでに装置自身は完成形となっている。実際、3軸133 Åを持つタンパク質での結晶構造解析に成功しており、これは当初目標である3軸135 Åを達成したと評価できる。ユニットセル体積としては世界記録であり、かつ分解能においても世界2位である。これは、総合力としてiBIXは世界最高の生体高分子用単結晶中性子回折装置に到達したと評価できる。装置グループはより巨大なユニットセルを持つタンパク質への挑戦を着実に進めており、いずれ当初計画目標を超える装置になると予想できる。

コーディネータによる支援、エキスパートによる解析の支援、ユーザーフレンドリーなソフトウェア整備など、充実した支援体制が構築、運営されている。この優れた支援体制が、新規ユーザー獲得とユーザーによる世界に冠たる成果を生み出していると高く評価する。

装置の将来像についても、装置の高度化、運営、維持管理、新技術開発などの各項目において明確な計画が立てられており、将来の発展に多いに期待できる。

以上の審査の結果、BL03は当初計画の目標を達成し、性能・成果ともに世界トップクラスの装置に到達していると同時に、充実した支援体制の構築に成功し多くの成果を創出していると評価する。

装置名:BL20(茨城県材料構造解析装置)

設置時の粉末回折装置としてだけではなく、小角散乱での高分子研究、集合組織観測での鉄鋼材料研究を加えた3本柱を一台で確立している。またオペランド測定や動的スピン偏極法の導入など個性ある周辺環境整備も進めており、さらに多眼的な装置への進化しようとしている。このような野心的な方向性の一方で、企業研究者にも使いやすい装置、というコンセプトを堅持している。この結果、BL20は産業利用としては世界で最も優れたハイスループット回折装置といえる。その結果、「エネルギー分野」、「社会インフラ分野」、「生活分野」の3分野で社会に貢献しているユニークな存在となっていることは高く評価できる。成果占有課題も多く、産業界から有用性を評価されている証左と考えられる。このような装置の存在はJ-PARCの世界的な競争力を高める上でも重要な意味を持つ。

さらに、現在実空間測定、ラジオグラフィー実験、即発ガンマ線分析など、産業界からのニーズが大きい分野にも挑戦していく計画に着手している。これはBL20にしかできない多角的な産業利用の展開が多いに期待できる。

BL20グループはZ-codeやMAUDなどの重要な解析ソフトを開発・整備しているだけでなく、その利用法の講習会を定期的に開催している。情報発信を目的とする研究会も活発に行い、新規企業ユーザーの獲得に成功していることも高く評価する。

以上の審査の結果、BL20は当初計画の目標を達成しただけでなく世界的にもユニークな産業利用装置として産業界に大きな貢献をしていると同時に、活発な広報活動、支援活動により中性子散乱のメリットのアピールに大きな貢献をしていると評価する。

総評

茨城県専用施設のBL03とBL20について過去5年間の実績を分科会での審議結果をもとに評価を行なった。BL03分科会からは「iBIXは成果を出しており、継続して運用することを提言する」、BL20分科会からは「今後もBL20が専用装置として継続して運用されることが必要である。」との答申があり、専用施設審査委員会で様々な視点から慎重に議論した結果、両分科会の結論は適切であると判断した。したがって「BL03、BL20とも専用施設として継続して運用すべき」と結論した。