J-PARCの中性子実験装置を用いた実験の研究成果が米国の科学雑誌「サイエンス」電子版に掲載されました!

2013.02.14

茨城県中性子ビームラインを用いた研究成果について
~新たに開発した貴金属フリー触媒の水素活性化メカニズムを解明~

2013年2月14日

茨城県
一般財団法人 総合科学研究機構
国立大学法人 茨城大学

茨城県が東海村の研究施設J-PARCに設置した中性子実験装置「茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)」を用いた実験結果を含む研究成果が、2013年2月7日に米国の科学雑誌「サイエンス」電子版に掲載されましたので、以下のとおりお知らせいたします。

 

概要

九州大学と総合科学研究機構、茨城大学の共同研究グループ(代表:九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所/工学研究院小江誠司教授)が、茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)を用いて中性子回折実験を行い、新規に開発した「ニッケル-鉄触媒」の水素活性化メカニズムを解明しました。
この触媒は、自然界に存在する水素活性化酵素「ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ」と同様に、常温常圧で水素から電子を取り出すことができます。これまでの水素活性化触媒は、高価な貴金属を用いていたのに対し、安価(既存触媒で使用しているルテニウムの約1/4000の価格)な鉄を使用した系での水素の活性化に初めて成功したもので、今後の燃料電池用の触媒などへの応用が期待される画期的な研究成果です。

なお、この実験は、茨城県装置を利用して先駆的な研究成果の創出を目指す研究として採択した「平成24年度茨城県中性子ビームライン県プロジェクト研究」として実施したものです。

 

研究内容について

研究チーム

代表者:
 九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所/工学研究院教授 小江誠司
共同研究者:
 総合科学研究機構東海事業センター利用研究促進部 副主任研究員 大原高志
 茨城大学フロンティア応用原子科学研究センター 准教授 日下勝弘

実験の概要

水素活性化酵素「ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼ」やその人工モデル触媒が、電子を取りだすエネルギーキャリアである水素の結晶内における位置を見ることは、茨城県生命物質構造解析装置(iBIX)(図1) による中性子構造解析が最も得意とするところです。



図1. 茨城県生命物質構造解析装置iBIX回折計

実験では、ヒドリドイオン (H) の位置を識別しやすいように水素を重水素に置換した人工モデル触媒試料を合成し、結晶化しました。それをiBIXにおいて測定温度120K(マイナス153℃)にて約5日間かけて中性子構造解析用データを取得し、水素(重水素)を含む結晶構造を解析しました(図2)。
X線による構造解析と合わせて検討した結果、水素を活性化した後に生成するヒドリドイオン (H) がニッケルではなく、鉄に結合していることを初めて明らかにしました。


図2. 中性子構造解析から得られた原子散乱長密度マップ
iBIXを用いて測定した中性子回折データを処理・解析することにより得られた人工モデル触媒の構造。青色のメッシュが非水素原子(重水素原子を含む)の存在を示す。
識別しやすいように重水素化(D)されたヒドリドイオンが鉄(Fe)に結合していることを示す。ニッケル-鉄触媒の水素活性化メカニズムの解明に重要な結果である。
この成果により、ニッケル-鉄ヒドロゲナーゼによる水素から電子を取り出すメカニズムを解明でき、貴金属フリー触媒による水素活性化の研究が飛躍的に前進した。

 

参考

茨城県生命物質構造解析装置について

茨城県が大強度陽子加速器施設「J-PARC」に設置した専用ビームラインの一つで、タンパク質や有機化合物等の単結晶中性子構造解析が可能な実験装置。創薬ターゲットタンパクの構造解析による新たな難病治療薬の開発や機能性高分子の構造解析による製品開発等幅広い分野に適用が期待されている。
装置の開発にあたっては新村信雄教授(当時、現在は茨城大学特任教授)を中心とした茨城大学と日本原子力研究開発機構のチームが担当した。また、この装置のために、日本原子力研究開発機構の片桐政樹氏(現在は茨城大学)が開発した検出器、今回の共同研究者でもある大原高志氏(当時は日本原子力研究開発機構)が中心となって開発したデータ処理ソフトウエア等を備えている。
茨城大学フロンティア応用原子科学研究センターの装置グループが運用/利用者支援を担当。

総合科学研究機構について

J-PARC物質・生命科学実験施設の5つの中性子共用ビームラインの利用者選定と利用支援を担当する登録機関。東海村のいばらき量子ビーム研究センター内に東海事業センター(センター長:藤井保彦)を設置し、共用ビームラインの課題公募や選定、ユーザーの実験支援等を行っている。

茨城大学フロンティア応用原子科学研究センターについて

茨城県が独自にJ-PARC内に2台の中性子ビーム実験装置を建設し、建設後の運転維持管理業務を茨城大学に委託することになったことから、人材養成、地域産業への貢献、学術研究推進を一層高いレベルで達成するために、平成20年に「フロンティア応用原子科学研究センター」をいばらき量子ビーム研究センター内に設置したもの。(センター長:佐久間隆)
なお、平成16年にはJ-PARC建設に伴い、茨城県や県産業界からの総合原子科学に係わる人材育成及び産業利用に関する研究・開発指導の要請を受けて、大学院理工学研究科に独立専攻「応用粒子線科学専攻」を設置している。

 

問い合わせ先

茨城県

企画部技監(中性子研究支援担当) 林眞琴
Tel: 029-352-3302
Email: m_hayashi@pref.ibaraki.lg.jp

総合科学研究機構

利用研究促進部 大原高志
Tel: 029-219-5300
Email: takashi.ohhara@j-parc.jp

茨城大学

フロンティア応用原子科学研究センター 准教授 日下勝弘
Tel: 029-287-7871
Email: kusakats@mx.ibaraki.ac.jp

 

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