2020.06.08
【東海ランチ1】夢の実現は目前 サイエンスコーディネータ加倉井さんと行く魚康
コロナ禍に揺れたJ-PARC MLFも日常を取り戻しつつあります。事前相談が必要ですが、5/28(木)からは県境をまたいで来訪されるユーザーの利用が可能となりました。ユーザーの中には初めてJ-PARCを訪れる方もいらっしゃることでしょう。「東海ランチ」では、J-PARCでユーザー支援をしている人と、その人オススメのランチを紹介します。第1回はJ-PARCに来たら1回は訪れる定番のランチ処「魚康」です。
営業時間: | 11:30~14:00(L.O. 13:30) 17:00~21:00(L.O. 20:30) |
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定休日: | 火曜日 | ||
支払い: | 現金またはPayPay | ||
TEL: | 029-282-2068 |
魚康は魚介類が美味しい定食屋
日本中性子科学会の賛助会員である魚康はJAEAの正門から徒歩3分の場所にある魚介類が美味しい定食屋です。J-PARCに実験に来たユーザーなら誰もが1回は訪れていることでしょう。ランチのおすすめは日替わりランチ。このボリューム、この美味しさで税込み1,100円はお値打ちです。
「魚康さんは元々お魚屋さんで、今の店長のご両親が昼だけランチをしていたんです。その頃(1988年頃)は昼は必ず魚康でした」そう話すのはCROSSのサイエンスコーディネータで日本中性子科学会会長の加倉井和久さんです。
ドイツから日本へ – 改造3号炉(JRR-3)の稼働
加倉井さんは中学校から大学院までをドイツで過ごしました。専門は中性子散乱による磁性研究です。1978年、磁気相転移の本質が磁気相互作用の次元性によって異なることに興味を持った加倉井さんは、中性子散乱研究室の大学院生となりました。物質の温度を下げていくと、それまでバラバラだった物質中の電子のスピンがそろうことで磁気相転移が起こります。中性子はスピン(磁気モーメント)を持つ粒子です。そして物質中の電子スピンと相互作用するので、磁性の起源となる電子スピンの振る舞いを中性子で直接観察することができます。
特にスピンの向きがそろった中性子(偏極中性子)を利用すると物質との相互作用の起源が原子核か電子スピンによるものかをより明確に判別できます。それにより三次元物質の中で発現する低次元磁性の振る舞いにスポットを当てることができます。
大学院からポスドクにかけてこのような中性子散乱の技術を学んだ加倉井さんは、改造3号炉(JRR-3)中性子散乱施設立ち上げの時期に日本に帰国して、東北大学の偏極中性子三軸分光器(TOPAN)の設計、設置に参加しました。それが1988年から3年間、ちょうど魚康に通っていた頃です。
夢の中性子利用理想郷は目前に
加倉井さんの夢は中性子利用の理想郷を作ること。今年度はいよいよ、2011年の東関東大震災から運転休止していたJRR-3が再稼働します。そうすると定常中性子源の実験はJRR-3で、パルス中性子はJ-PARC MLFで利用実験ができるようになります。
パルス中性子を活用した飛行時間法は試料物質から色々な方向に散乱された中性子を大面積検出器でその位置と時間を一挙に観測して、その物質を構成する原子核や電子スピンの位置や運動に関する情報を総合的に収集することに適しています。
一方ある特定な方向のみに散乱される中性子の検出を、中性子のスピン状態の変化も含めて詳細に解析する必要のある実験(例えば電子スピンの向きに非常に敏感な3次元偏極解析)では時間積分強度で勝る定常中性子の利用がより有効的な場合があります。そのように的を絞った散乱現象の観測ではJRR-3に設置された偏極解析のオプションを含む3軸分光器の活躍が期待できます。
このように両方の中性子源施設を相補的に活用することで中性子利用の効率が格段に向上します。この二つの大型中性子源施設と近年充実した多数の加速器型小型中性子源施設の連携により「中性子利用の理想郷ができるわけです」。加倉井さんの夢の実現はもうすぐそこです。
加倉井さんが中性子利用理想郷について語る「『中性子利用理想郷』を夢見て」は日本中性子科学会誌「波紋」Vol.29, No.2, 2019 p67〜68に掲載されています。
サイエンスコーディネータとは
加倉井さんは40年以上中性子実験に携わってきた経験を活かし、CROSSのサイエンスコーディネータを務めています。CROSSroadsなどの研究会や会議をCROSSのメンバーと開催して中性子実験に関する研究者の理解を深め、利用支援に繋がるよう研究者を仲介することもあります。Webなどで申し込まれる利用相談に対応したり、年に2回ある一般課題[短期](短期課題)と1回ある一般利用課題[長期](長期課題)の課題申請時には、申請者にアドバイスをしたりします。また、長期課題に繋がるような国内外の研究者の仲介をすることもあります。
2019年にプレスリリースされた磁気スキルミオンの実験は理化学研究所創発物性科学研究センター(RIKEN-CEMS)の研究者と2017年に申請した長期課題の中で実施されました。長期課題では3年という長期的なビジョンで実験に取り組むことができます。「このような制度ができたのは良かった」と加倉井さん。短期課題は半年ごとに課題申請し採択されないと実験ができませんが、長期課題は関連する実験を継続的、且つ速やかに推進することができます。
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産業利用、学術、生物、ミュオンとCROSSのサイエンスコーディネータは経験豊富な各分野の研究者です。少しでも中性子利用にご興味をお持ちになりましたら、ぜひご一報ください!