「専用ビームラインの実績評価と次期計画の評価」について

「専用ビームラインの実績評価と次期計画の評価」について

J-PARC MLFの専用ビームラインは、(国研) 日本原子力研究開発機構、(共) 高エネルギー加速器研究機構以外の設置者が、その利用目的に添った計画を立案し、登録施設利用促進機関であるCROSSに設置した専用施設審査委員会および選定委員会において「中性子線専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき検討評価され、選定されます。

現在、J-PARC MLFには茨城県による2本の専用ビームラインが稼働中です。設置が認められた専用ビームラインは、専用施設審査委員会が、その使用状況および研究成果等を定期的に評価し、選定委員会の審議を経て必要に応じて登録機関が専用ビームラインの改善、更新、撤去等を勧告します。2014年には、専用ビームラインの中間評価が行われ、引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ました。

2016年12月、茨城県からJ-PARCセンターへ茨城県専用施設(BL03、BL20)の10年間の設置期間満了に伴う再契約の申し出がなされました。それを受けて、J-PARCセンターからCROSSに対して、共用法に基づく「実績評価と次期計画の評価」の審議依頼の通知がありました。

CROSSは2017年2月の選定委員会において、「中性子線専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に従い「専用施設の実績評価と次期計画の評価」を実施するように専用施設審査委員会に諮問しました。
「専用施設審査委員会分科会」により2017年7月に2本の専用ビームラインの設置後10年間の実績評価と今後の10年間の次期計画の評価が実施されました。その答申を基に2017年8月に「専用施設審査委員会」及び2017年9月に開催しました選定委員会において審議され、『設置後10年の実績は十分役割を果たし、さらに今後10年間の装置管理・運営を継続することが望ましい』との結論を得ました。2017年10月、CROSSより審議依頼者であるJ-PARCセンターへこの結果を通知いたしました。

評価の審査結果は下記の通りです。

実績評価と次期計画の評価を実施した専用ビームライン

  1. BL03(茨城県生命物質構造解析装置;iBIX)
  2. BL20(茨城県材料構造解析装置;iMATERIA)

装置名:BL03(茨城県生命物質構造解析装置;iBIX)

① 実績評価

新型エンコーダモジュールを搭載した改良型検出器の開発など、装置の建設・開発は計画通り進められた。その結果、測定効率、測定可能格子長、分解能などの主装置性能も当初目標をほぼ100%達成し、世界に誇る研究装置となっている。一方、装置建設開始以降、J-PARCでは度重なる事故や震災があり、現在も加速器出力150kW(目標出力1MW)で運転されており、タンパク質の中性子結晶構造解析にとって致命的なトラブルに見舞われてきた。そのような状況において、生体高分子であるセルラーゼやピリン還元酵素などの中性子の特長を生かしたインパクトがある構造解析の研究成果が得られている点、ソフトウエアの充実、パワーユーザーの獲得・育成など、中間評価時の指摘事項はいずれも適切に対応され、開発グループの多大な努力を評価する。設置後10年の実績として世界の生命物質構造解析装置として十分な役割を果たしたと評価する。

② 次期計画評価

タンパク質などの生体高分子の中性子構造解析はX線回折法を補完する手法として、科学的及び社会的意義は大きい。また、産業利用に向けた装置高度化計画や、「1 MW運転時に1 mm立方以下の単結晶で測定可能」という目標設定は適切である。装置グループの先見性は高く、質的に充実した研究及び利用者支援体制が構築される能力は十分保持していると判断される。しかしながら、今後のユーザー数の増加や測定サンプル数の増加を考えると、提案グループの規模は若干脆弱に感じられる。安定的な支援をするためには、グループの増員と支援体制の見直しが必要である。今後10年は加速器が1MWで安定的に運転されることを確信し、次期計画書に記載されているような重水素化計画などタンパク質の構造解析を着実に実行し、中性子構造解析がX線構造解析とともに医薬品のデザインや持続可能社会の構築に大きく貢献できる手法であることを証明されたい。

本装置は、J-PARCの中でも貴重な生命物質研究用の装置であることから、多くの利用者が活用できるよう運営面での工夫を期待する。

装置名:BL20(茨城県材料構造解析装置;iMATERIA))

① 実績評価

分解能、測定可能なd領域、測定時間などの主装置性能のほか、必要な試料環境制御や試料交換装置などが整備された産業利用に特化した世界トップレベル性能を有する特徴ある装置が整備され、また産業界のニーズに即した充実した利用支援体制も整備、運用されている。研究成果の面では、広い分野で論文投稿が増加しており、プレスリリースも行われた。産業利用の面では、着実な成果非公開利用数の増加を示しており、設置後10年の実績として産業利用に特化した世界の構造解析装置として十分な役割を果たしたと評価する。

② 次期計画評価

茨城県のイニシアティブのもと、産業利用を重点的に推進する運営方針は、中性子利用の社会への普及に貢献するものであり、社会的意義は高い。次期研究計画として、重点三分野(エネルギー、社会インフラ、生活)を設定して具体的な研究計画を提案し、それに整合する合理的な高度化計画が示されている。茨城大学の研究者の専門性を生かす有機的な連携が提示されており、研究能力並びに利用者支援能力ともに高く評価する。第1期よりも装置グループメンバーが拡充されており、研究分野の拡大やさらなる発展が期待でき、人材育成という部分も大いに期待したい。J-PARCを代表する産業利用BLであり、今後もその位置づけは変わらないと判断する。

総評

茨城県専用装置のBL03とBL20の設置後10年間の実績と今後の10年間の計画を評価し、「設置後10年の実績は十分役割を果たし、さらに今後10年間装置管理・運営を継続することが望ましい」との結論を得た。